大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)319号 判決

被告人 山田恵作 外一名

〔抄 録〕

論旨は、原判決は、検察官が審判を請求した訴因の範囲を逸脱し、被告人両名の金品強取の共謀につき、事前共謀の訴因を数時間を経過したのちの現場共謀と認定したが、これは審判の請求を受けない事件について判決したものであるから、刑訴法三七八条三号後段に該当し、破棄を免れないというのである。

そこで、記録を調査して検討すると、本件公訴事実(訴因)の要旨は、「被告人両名は、昭和五八年五月一日午前二時ころ、東京都新宿区高田馬場二丁目一九番地先西武新宿線線路下避難通路(通称トンネル)東側路上において、通行中の古瀬雅敏(当二八年)を認め、同人から金品を強取しようと企て、共謀の上、同人に対し、「酒代をくれ」などと金員を要求し、こもごも、その顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加えて同人を右トンネル内に連れ込み、同所で更に同人に対し、その顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加えてその反抗を抑圧した上、同人のポケットから金品を強取し、更に同人の逃走等を妨げるなどのため同人に暴行を加え、右一連の暴行により同人に傷害を負わせた。」というのであるが、原判決は罪となるべき事実として、大要、「一 被告人山田は、前記トンネル東側道路を歩いて来た古瀬に対し、「酒代をくれないか」と声を掛けたところ、同人が応じなかったばかりか、山口組に関係があるかのような言動を示したとして立腹し、手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加えて同人にトンネル内に入るように促し、付近にいた被告人森本にも同行を求め、相前後して右トンネル内に入り、同所において、被告人山田は右古瀬とつかみ合いになり、同人の顔面を手拳で殴打するなどの暴行を加え、二 更に、被告人山田は、古瀬から山口組関係の証拠を捜し出すべく、それまでトンネルの東側出入口付近で様子を見ていた被告人森本にも応援を求め、被告人両名において古瀬の着衣を調べ上げ、被告人山田において古瀬のジャンパー内ポケットから現金等在中の財布一個を捜し出し、紙幣を取り出して枚数を数えるなどしていたところ、古瀬が被告人山田から右紙幣を奪い返し、同被告人の顔面を殴打してトンネルから逃げ出そうとした。ここに至り、被告人両名は暗黙のうちに意思相通じて共謀のうえ、古瀬から金員を強取しようと決意し、被告人森本において古瀬の逃走を阻止したのち、被告人両名において古瀬の顔面を手拳で殴打するなどし、更に被告人山田が指示し被告人森本においてタオルで古瀬の両手首と両足首を縛り上げるなどの暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ、被告人山田において古瀬のズボンのポケットから一七万八〇〇〇円位の紙幣を抜き取って強取し、その際、右一連の暴行により、同人に対し、加療約一週間を要する頭部・顔面・両眼部打撲、頸部擦過傷、左小指咬創の傷害を負わせたが、右頭部・顔面打撲及び頸部擦過傷の傷害は、被告人両名の前記強盗の犯意発生の前後すなわち前示一、二いずれの暴行によって生じたものか不明である。」旨を認定し、被告人両名を強盗致傷罪の共同正犯として(但し、被告人山田については原判示一、二を包括して一罪として、被告人森本については同二につき)処断した。すなわち、原判決は、被告人両名の強盗の犯意発生及び共謀の時期をトンネル内において古瀬が被告人山田から紙幣を取り返して逃げ出そうとしたときと認定したもので、強盗の共謀の成立時期が訴因におけるそれよりも繰り下がっていることは所論のとおりである(なお、これに伴い原判示一は被告人山田の単独の暴行となり、現金強取の時期も繰り下がり、訴因にある強取金品の一部が除かれている)。しかし、訴因の事実と原判決の認定した罪となるべき事実とを比較すると、日時、場所は一致しており(被告人森本については原判示二の範囲で)いずれも被告人両名が被害者古瀬に対し暴行を加えて傷害を負わせ、同人から現金を奪取した一連の行為を内容とするもので、その基本的事実関係は同一であるから、原判決の認定が公訴事実の同一性を害するものでないことはいうまでもない。ただ、訴因が被告人両名は当初から金品強取を共謀して行動したとするのに対し、原判決は、両名が当初から金品強取の意図・共謀のもとに犯したと認定するには合理的な疑いが残るとして、共謀の成立時期を前記のとおりに認定したもので、原判示の限度で検察官の主張を肯認する趣旨のものと認められる。そうしてみると、原判決の右認定はいわゆる縮小認定とみることができるのであって、原判示事実は訴因の事実におおむね包含されており、あらかじめ訴因変更の手続を経なければその認定が許されないほど訴因の事実と異なるものとは認められない。のみならず、原審において被告人両名の弁護人は、被告人両名の強盗の犯意及び共謀を否定し、被告人山田は古瀬に対する暴行が終了した後に財物奪取の意思を生じたものであると主張し、証人古瀬雅敏や被告人両名らに対し事案の全般にわたって詳細な質問をするなど、十分に防禦を講じ、強盗致傷罪の成立を争っており、単に本件発生の発端となった前記路上での被告人山田と被害者との応酬や同人らがトンネル内に入った経緯、目的のみが攻防の対象とされたのではないことが認められるから、原判決の認定が被告人らに対して不意打ちであったとは考えられない。したがって、原裁判所が審判の請求を受けない事件について判決をしたものでないことは明らかである。

(小野 安藤 長島)

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